黒魔術部の彼等 ディアル編7


以前、ディアルに他の楽しみも知ってもらいたいと
頭を使いそうな物を持って行ったが、全て不発に終わった。
どんな難解なパズルも、彼の前では容易く解かれてしまう。
それなら、いつも使っている頭を癒す方向で行こうと、またディアルの家を訪れていた。

「ディアルさん、今日は外へ出てみませんか?」
「行きたい所があるのか」
自分が行きたいのではなく、ディアルを連れ出したいだけなのだが、頷いておく。
ディアルは重い腰を上げ、転送装置へ向かった。


行き先は、街から外れた美術館。
立派なのだが交通が不便なので、あまり人は訪れない。
人ごみは好きではないだろうと、わざわざ時間をかけて来ていた。
古めかしい洋館は、キーンの家とはまた違う不気味さがある。
軋む扉を開けると、休日にも関わらず中は静まり返っていた。
この時点で引き返した人が何人いただろうか。
けれど、怪しい部活で感覚が麻痺してしまったようで、物怖じせず奥へ進んで行った。

美術館としての形にはなっているようで、広間の壁には立派な額に入った絵が並んでいる。
横に長い絵には複数人の人が描かれていて、パーティを楽しんでいるような雰囲気だった。
傍には小さなプレートが飾られていて、タイトルと軽い解説が書いてある。
「この絵は・・・最初の晩餐。集まった13人の同志達を祝う絵みたいです」
ディアルは、無言で絵を見ている。
隣の絵に目をやると、まるで同じような絵が飾られていた。

「あれ、こっちも同じ絵なんですかね?」
「いや、一人減っている」
隣の絵と見比べて数えてみると、確かに一人足りない。
人の表情や服装は何ら変わりないのに、不自然な感じがした。

「一人だけ、用事でも入ったんでしょうか」
「・・・一見、同じようには見える。だが、喜びの内容が違うのだろう」
疑問符を浮かべて、解説のプレートを見る。
題名は「終焉の晩餐」と、さっきの絵とは対照的だ。
その解説は、裏切り者を殺した喜びに満ち溢れている同志達と、物騒なことが書かれていた。
解説を読まなければ、ただの幸せそうな場面に見えていたのだが
この美術館に人が来ない理由が、また一つわかった気がした。


「えーっと、次の絵は・・・」
さらに奥へ進むと、磔にされた成人男性の絵があった。
十字架に足や掌を打ち付けられて固定され、痛々しい。
その隣に連なって、また同じ絵が並んでいる。
「・・・今度は、そっくりそのままみたいですね。描かれているのは男性だけですし」
ディアルは絵に近付き、じっと二つの絵を見比べる。
数秒後、何かを感じ取ったのかさっと身を引いた。

「画材が違う」
「そんなこと、わかるんですか」
怖々と、解説のプレートを読む。
題名は、「磔」といういたって普通のもので、解説の代わりに使われた画材が列挙されている。
1枚目に使われているのは、アクリル、油絵具だったが
2枚目には、アクリル、油絵具に加えて、作者の血液と書かれていてぎょっとした。

「・・・か、帰りますか?」
「いや、高度な間違い探しのようで楽しめそうだ」
楽しめそう、と聞いてぱっと気持ちが明るくなる。
目的はディアルに楽しさを感じてもらうことなのだから、絵がいくら物騒でもこの時点で成功だった。


時間をかけて、屋敷内の絵を全て鑑賞する。
物騒な絵はもちろん、そうでない絵でも解説を見ると重々しい気持ちになる。
精神的に疲れたけれど、ディアルが興味深そうにしていたことが嬉しかった。
最後まで誰にも会わず、出口へ向かう。

「絵画は中々良かった。作者が何を思って描いたのか考察できる」
「楽しんでもらえて、よか・・・」
外へ出ようとしたとき、気配を感じてはっと口を閉じる。
出口の前には、漆黒のローブを着た細長い何かが立っていた。
フードを深々と被り、裾を引きずっていて中身があるのかもよくわからない。
ローブが、ずるずると近付いて来る。

「お気に召して・・・いただけましたか・・・」
ざらざらとした、老人のしゃがれ声に似た音が耳に届く。
寒気が体を通り抜けたけれど、嫌な顔をしては失礼だ。
「えーっと・・・他の美術館にはないような特徴的な絵画が多くて、楽しめ・・・ました」
「それは・・・ようございました・・・」
ローブがさらに近付いてきて、一冊の本を差し出す。
表紙には、最初の晩餐が描かれていた。

「よろしければ・・・この画集をどうぞ・・・」
「あ、ありがとうございます。値段は・・・」
「お題は結構です・・・じっくりと見てもらえて・・・絵画達も喜んでいることと思いますから・・・」
近くで声を聞くと、ざわついた感覚が強くなる。
ディアルは、平然と画集を受け取っていた。
そのとき、ローブからちらりと見えた手が骨のように細かったのは、栄養失調のせいだと思いたかった。




ディアルの家に戻り、二人で画集を見る。
洋館の絵画が詳しい解説付きで掲載されていて、詳細を知ってしまうとおぞましさが増した。
「ディアルさん、絵もいいんですけど、音楽鑑賞はどうですか」
ショルダーバッグから音楽プレーヤーを取り出し、音量を上げる。
イヤホンをしなくても、静かなピアノの音楽が聞こえてきた。

「音楽、邪魔になりますか?」
「いや、気にならない」
それは褒め言葉と受け取り、ディアルと肩を触れさせる。
画集は閉じられ、本棚へ飛んで行った。

「今日は、美術館に付き合ってくれて嬉しかったです」
「良い所を見つけたな、画集を見るだけでは感じ取れないものもあった」
それは、背筋を通り抜けた寒気のことだろうか。
とにかく、満足してもらえて何よりだった。

「昨日は失敗でしたけど、ディアルさんの楽しみを1つ見つけられてよかったです」
「お前は、あまり安らいでいなかったようだな」
この人は鈍感なのか、感受性が強いのか。
その通りで、苦笑いする。

「今度は、お前が安らぐことをするか」
「あ、じゃあ・・・」
願ってもない提案だけれど、言葉に詰まる。
癒しという単語で調べていたら、出てきたものがある。
けれど、それを彼の前で堂々と言うのは気が引けた。

「あ、いえ、いつものように寝るだけで・・・」
「言ってみろ」
気恥ずかしくて、視線を外す。


「・・・ポリネシアン・・・セ・・・ックス・・・って、いうんですけど・・・」
後半、小声になったが隣にいるのだ、聞こえていたと思う。
「長い時間をかけて交わる行為か」
「あ・・・はい、物知り、ですね・・・」
普通の性行為とは違い、達するまで数時間かけてお互いの体温を十分に味わい尽くす。
性的な欲望を発散するよりは、精神的な繋がりを重要視した行為だ。
それでも、発禁の内容には違いなくて、赤面せずに言うことはできなかった。

視線を外したままでいると、ふいにディアルが指先を向けてくる。
そして、服のボタンが次々と外れていった。
「ディ、ディアルさん」
「今度は、お前が望む番だ」
そんな台詞に、誘われる。
自分の服がするすると脱がされると同時に、ディアルの服に手をかけた。


お互い、何も身に着けていない状態になる。
白い素肌に見惚れてしまいそうだけれど、それよりも触れたい気持ちが強くなる。
ベッドにゆったりと寝転がり、控えめに身を寄せる。
隔たりのない状態で素肌に触れて、ほんのりとした温かさが心地いい。
遠慮がちでいると、肩に手が回される。
軽く引き寄せられたものだから、自分からもディアルに腕を回して抱き付いた。

どうしようもない欲望が、反応してしまいそうになる。
けれど、背中から蜘蛛の足が出ていないからまだ大丈夫なはずだった。
ただ抱き合っているだけでなく、ディアルの手を取り引き寄せる。

「ディアルさん、手も全然焼けてないんてすね。掌は広くて、指は長い・・・」
「身長に比例しているんだろう」
真面目な答えを気にせず、指先をくすぐるように撫でる。
掌に沿ってなぞり、隙間に自分の指をやんわりと絡ませた。
ディアルは無反応だったけれど、振り払われないだけ良かった。

今の状態は、まるで恋人のようだ。
キスをしたり、裸で寝たりしたら、恋人と同義だろうか。
ただ、そんな甘い関係で呼ぶのは違和感がある。
きっと、この人はそんな感情なんて持ち合わせていないだろう。


指を解き、手首から腕を優しく撫でていく。
首元に身を寄せると、居心地の良さに包まれた。
「・・・眠ってしまいそうですね」
「もう、寝てもいいのか」
これは、単純に眠たいのか、それとも、これ以上のことをせずに眠っていいのか問われているのだろうか。

「・・・ディアルさんは、こうして触れられて、その・・・欲情、なんてしないんですか」
「オレはそういう欲には無縁だった。不感症ではないが、人よりは鈍いのだろうな」
羞恥心もあまり持ち合わせていないのだろうか、ディアルは平然と答えた。
少し残念だけれど、そういう人なのだ。
それに、この手で触れればちゃんと反応してくれる。
相手を吹き飛ばすこともなく、最後まで行為を。

よからぬことを考えると、下肢に血が行ってしまう。
気を落ち着かせようと、いったん身を離した。
「どうかしたか」
「あ、いえ、お構いなく・・・」
とっさに背を向け、これで察してほしかったけれど

「長時間、接していなければならないのだろう」
背後から抱き留められ、身がすくむ。
そうやって、相手から接してくれることなんてなかったことだから
高鳴った心臓から、血流が一気に下半身へ流れて行ってしまった。

「あ、あの、今、だめです、その、体が」
「反応したのか」
ごまかしようがなくて、頷く。
「そういう欲を抱くのは自然なことだ。それが普通だ」
その言葉は、まるで自分が異常だと言っているように聞こえた。
とっさに振り返り、ディアルと向き合う。

「ディアルさんだって、同じはずです。
ただ、高揚しやすいかしにくいかだけで・・・触れれば、応えてくれる」
少し身を動かして、下半身をディアルに触れさせる。
自分の猛りは完全に熱を帯び、その温度を相手に伝えた。


「・・・お前は、触らずともそうなるのか」
「・・・あなたと接していると、どうしても抑えが利かなくなる。
ふしだらな奴だって思われても無理ないです」
手を、下肢の方へ伸ばす。

「すみません、もう、やすやすと眠ることはできないです・・・」
掌がディアルのものに触れた瞬間、蜘蛛の足が出てしまう。
こうなってしまっては、達するまで抑えることはできなかった。
「謝ることはない。行為に及ぶ時間が短縮されただけだろう」
最初から、最後まですることを許容してくれていたのだと思うと、遠慮がなくなる。
掌で包み込んだものを、ゆったりと上下に擦る。
声を堪えているのか、ディアルは瞬時に閉口した。


単純な上下運動でも、やがて相手も反応を示す。
伝わる温度が上昇し、自分と同じように硬さを増していた。
その間、ディアルは一言も発しなくなる。
声が聞けるのは、達する瞬間だけだろうが
あわよくば、息を荒くするところを見ていたい。
高まりきっている自身と身を合わせ、同時に愛撫していく。
ディアルは一回だけ息をついたけれど、荒々しさとは程遠かった。

欲望が渦巻く。
こうして触れ合えているだけでも恵まれているのに。
意識していないのに、蜘蛛の足がもぞもぞと動く。
そして、先端から銀色の糸がふわりと出てきていた。
「え、あれ、これ・・・何だろう」
思わず下肢から手を放して糸を掴むと、絹糸のように柔らかい。
それは、まるで意思を持っているかのように下半身へ伸びていく。

「と、止まれっ」
足を掴むけれど、糸は止まらない。
終いには、お互いの猛りの根本にするするすると巻き付いてしまった。
そこで血が止められて、先端へ向かって集まる感覚がする。
痛くはないけれど、欲は余計に誘発される感じがした。

こんな、変態まがいなことをしてもディアルは拒否する様子はない。
気が変わらないうちに進めようと、再び下肢へ触れた。
掌で二人のものを密接にさせ、手を上下させる。
「っ・・・」
急に感じるものがあったのか、ディアルがわずかに眉をひそめる。
指先で先端を撫でると、自分のものもやたらと脈動した。

何だか、感じやすくなっているように敏感だ。
糸が巻かれ、血が集中しているからだろうか。
これも自分の欲望がもたらしたことだと思うと、恥ずかしい奴だと改めて実感したが、この機会を逃す訳にはいかない。
指の腹で先端を弄ると、どくりと脈打つのがわかる。
その振動は、相手のものからも確かに伝わっていた。
指はお互いの間へ這わされ、その身を上から下へと丁寧になぞっていく。

「っ、は・・・」
やはり快感が強まっているのか、ディアルが熱っぽい吐息をつく。
同時に、黒い蛇竜が姿を現し、悶えるように身をよじっていた。
「ディアルさん、感じやすくなっているんですね・・・僕もですけど」
動かしているのは自分なのに、高揚感は収まることを知らない。
それも、目の前の相手の吐息を感じているからに違いなかった。


もう、手を止めることはできない。
余すとこなく触れたくて、全体を撫で回す。
ディアルの瞳は徐々に虚ろになり、脳が快感で犯されているのだとわかる。
そんな様子を見つめて、夢中になっていた。
裸でいるのに、じんわりと汗をかく。
そろそろ達してもいいはずだけれど、欲は解放されないままでいる。

「ディアルさん・・・苦しい、ですか」
「少しな・・・。・・・根本でせき止められていると、達することができない・・・。
人の構造は、そうなっている・・・」
ああ、これはきっと、悦を感じている姿を見続けていたいという願望のせいだ。
長く触れ合いたい思いが、やすやすと終わらせてしまわないように抵抗しているのだ。

確かに、普段からは絶対に感じられない吐息や、熱っぽい眼差しは魅力的すぎる。
けれど、相手を苦しめてまで味わうものではない。
手を退け、背中の蜘蛛の足を引き寄せる。
切っ先を動かないように掴み、慎重に糸をなぞって切った。
その瞬間、溜まりに溜まりきったものが一気に先端へと向かう。

「あ、あぁ・・・っ・・・!」
抑えられていた分、反動が強すぎた。
欲望は最高潮に達し、白濁が放出され、滴り落ちていく。
それはディアルを濡らし、粘液質で淫らな感触をまとわりつかせる。
そして、身震いが蜘蛛の足にも通じて震え、ディアルの糸も切り離していた。

「う・・・ソウマ・・・っ」
強く、体が抱きしめられる。
下肢が隙間なく重なった途端、ディアルからも欲が解放されていた。
お互いの液が交わり合い、とても淫猥な感覚に包まれる。
何度か脈動し精を吐ききると、ディアルは大きく息をついていた。


肩で息をして、ディアルの首元に寄り添う。
顔を上げても、表情はよく見えなかった。
「ディアルさん・・・どんな顔してるのか、見たい・・・」
「・・・面白味のあるものじゃない」
広い掌が後頭部に回され、体を包み込むように抱かれる。
まさか、羞恥を感じているのだろうか。
止められると、ますます見てみたくなるけれど
最後に、求めるように名前を呼んでくれたことだけでも嬉しくて、満足していた。

蜘蛛の足は収束し、落ち着きを取り戻す。
ディアルの蛇竜は、ゆったりと蜘蛛と絡まり合っていた。
本能的に求められているのだと実感して、胸の内側が温かみを帯びていく。

「急いてしまってすみません・・・。あなたと居ると、しきりに求めてしまう」
「オレは感情が表に出ないからな・・・体の繋がりが欲しくなるのも無理はない」
まさしく、相手を欲しがっていた。
この行為の果てに、精神的な繋がりを感じられるから。
上辺だけではない、確実な結びつきが欲しかった。
超能力で吹き飛ばされなかったことが、拒否の言葉が出なかったことがその証拠だと信じたい。
蜘蛛の足はゆっくりと伸ばされ、すがるように、逃がさぬように、ディアルの背に回されていた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
ディアルとの発禁回2回目・・・ゆったりしたことをさせたかったと思いきやどうしてこうなった。